あるきょうだい児の恋愛の話と選んだ生き方

私は重度知的障害を伴う自閉症のある弟がいる「きょうだい児」。きょうだい児の悩みとして多いことの一つが恋愛。
今回は自分の恋愛の経験を振り返ってみた。結果、「きょうだい児だから」というだけでなく、ジェンダーやルッキズムなども絡んでいたし、私は「恋愛・結婚しない」という選択をした。「きょうだい児だからこうだった」というよりは、一人のきょうだい児の経験・見方という感覚で読んでいただければです。
雪代すみれ 2024.09.15
誰でも

■非モテの呪い+きょうだい児

中学生の頃に「デブ」「ブス」と言われていたり、モテる同級生と比較して、「ブスだから何か他に取り柄がないと居場所がなくなる」と思ったり(勉強と部活はかなり頑張った)。“非モテ”の自覚は持っていた。

でも結婚は「するもの」だと思っていて。小さい頃から、「将来は弟に理解のある人を選ぶ」ということを周囲の大人に言われることもあったり、内面化したり、自ら察してそう口にすることもあったり。

高校生まで付き合ったことがなくて、「ブスで彼氏がいたことがないのは恥ずかしい」という思いを持ったまま大学生に。大人になるにつれて、結婚には家族の問題が絡むことを知り、障害者差別を見聞きする中で、「障害のある弟がいる自分」という要素はプラスに働くことはないだろうことを察していた。きょうだい児という観点で恋愛面への影響を感じたのはその頃からだった。

それで、「自分が好きになるか」よりも「自分なんかを選んでくれるか」を重視してきた。結果、モラ男と付き合い、短期間で急激に痩せた。自分に自信がなさすぎて「私を好きになってくれる人なんて、もういないかもしれない」という恐怖心を持っていたものの、さすがにやばさを感じ、すぐに別れようと思えたのはえらかった自分。

ちなみにモラ男は付き合ってから障害者差別発言をする場面もあった。ヤレるなら誰でもよかったのだと思う。

その後、優しい人と付き合えば上手くいくのでは?という単純な考えで、付き合ってみたけれども、何考えているのかよくわからなくて長続きしなかったり。大学生の後半は公務員試験勉強で恋愛どころではなくなった。

■就職後は早めに弟の障害を開示

10年くらい前は、まだ今ほど結婚しない選択が受け入れられていなくて、結婚しなくちゃ!と思っていた。

そもそも私はリーマン氷河期世代で、就活で有利になるような偏差値の高い大学に通っていたわけでもなく、そして、自分がどうしたいかも決まっていなかった。出身大学で判断されるのではなく、勉強で逆転できるということと、キャリアと子育ての両立のしやすさも公務員を選んだ理由の一つであった。

就職後は、年齢的にも、交際相手と結婚の可能性があると思い、お互いに時間を無駄にしないよう、付き合う前に弟の障害のことは開示していた。その頃には、きょうだい児が兄弟姉妹の障害を理由に結婚が破談になったケースのことも知っていたから、「嫌ならさっさと離れてください」というスタンスに。

開示したうえで、付き合った人もいる。内心どう思っていたかはわからないものの、露骨に避けられた経験は私自身はなかった。

■恋愛への関心が薄いことに気づく

公務員の頃は男性からも女性からも「彼氏いるの?」「早く結婚しなよ」的なことを言われたり、そこまで興味ないみたいな感じに言っても「良い人と出会ってないだけ」みたいに言われたりすることは珍しくなかった。

フリーランスになったのは2019年。#MeToo以降、急激に社会の価値観の変化が起きて、「恋愛や結婚にむやみに触れるものではない」みたいな空気感が強まったし、ジェンダー系の記事を書くようになって、仕事で関わる人にフェミニストが多くなると、呪いをかけるような言葉を言われることが本当になくなった。

それもあってか、30歳になる少し前に、「あれ……?別に私結婚したいとも思っていないし、そもそも恋愛への関心低くない?」と気づく。

私が「結婚したい」と思っていたのは、「ブスだから結婚しないとバカにされると思っていた」「非モテだから誰かに選ばれないのは恥だと思っていた」という呪いであって、「結婚しなければ」だったのだなと。

■現在:一人でいるのが大好き

一人で過ごす時間が大好き。コロナ禍で世間では「人と会えないのがつらい」と話している中で、不謹慎と言われるかもしれないけれど「人と会わなくていいなんて快適!」と思っていたタイプ。

「どうして私は寂しさを感じないのだろう……」と少し自分を疑うレベルで寂しさを感じないくらい。これからも一人で暮らし続ける計画。

一人でいることが好きなのは、きょうだい児であった影響が大きいと分析している。

家で落ち着いて過ごすことができなかった。トイレに行くのにも、弟が勝手に入ってこないよう、自分の部屋に鍵をかける必要があったし、いつも家はうるさかった。「家族だから」とバウンダリー(境界線)を尊重されない家だった。

実家を出た初日、家が静かなことに感動して涙を流したし、家でリラックスできることの本当の感覚を知った。

ただ「絶対に意地でも結婚するもんか!」というわけでもなくて。とはいえ、親しい人ができたとしてもドアは隔てたい。生活空間を共にはしたくない。

■きょうだい児ならではの結婚したくない・子どもをほしくない理由

一人でいるのが大好きなのは、きょうだい児であることの関連性が高いと思う。でも結婚したくないのは、色々な理由が挙げられる一方で、きょうだい児ならではのことや、機能不全家族育ちゆえの罪悪感も。

これは「結婚しなければ」と思っていた頃から持っていた感覚だった。今は明確に子どもを産まないと思っているけれども、いつか子どもを産まなければと思っていた頃は、「障害のある子が生まれたら私のせいにされるのかな。私のせいだと思ってしまいそうな自分も嫌だな」とか、弟の世話に関することで、パートナーやパートナーの実家を巻き込んでしまうのは申し訳ないとか。

「自分もパートナーの家族に巻き込まれるのだからお互い様」という意見を聞いたこともあって、頭ではわかるものの、自分が巻き込むことはすごく申し訳ない気がしてしまって。

きょうだい児ならではの子どもをほしくない理由は、障害児育児の大変さを見てきたから。遺伝だけではないから、自分が子どもを産んだ場合に、障害があるかもしれないし、ないかもしれない。

少なくとも、自分のきょうだい児としての痛みが癒されていない段階では、子どもを産むという選択はないなって。ちなみに、子どもを産まない理由は、経済的なこととか社会への不安などの理由もあります。

あと、単純に家族に憧れないのもある。機能不全家族育ちの人で「しんどい環境だったがゆえに、自分は幸せな家庭を持ちたい」という話を聞くけれども、私は自分の感覚として、同じ生活空間に人がいることで、幸せに感じることの想像ができなくて。そういう点から考えると、たとえ障害のある子が生まれないとわかっているとしても、私は子どもを産む選択をしない。話が戻るけれども、一人が大好きで、寂しさを感じないから、家族を欲しいと思わないという部分もあると思う。

※知的障害も発達障害も遺伝する可能性があるものの、遺伝だけではないという話を見ます。この辺はググればすぐ出てくるので、興味がある人は見てください。ちなみにうちの両親も特に診断は受けていないし、私から見て、実は障害があったのでは?と思うようなこともなかったです。

また、出生前診断で全てがわかるわけではないし、生まれてから病気や障害になることを考える必要もあると思います。

※念のため。今の社会や自分の状況において、自分は責任を持って育てられないと思っただけで、障害のある子を育てやすい・障害のある子も生きやすい社会にしたいと思っているので、自分なりにできることをしていきたいと思っています。優生思想に反対していることは明言しておきたいです。

■一人でいる選択に納得・満足

きょうだい児×機能不全家族の環境でなければ、人と一緒に暮らすのが好きだったかもしれないとか、恋愛観が変わったかもしれないとは思う。

でも今、一人で過ごす時間の多いこの生活が好きで、自分で納得できる生活を送っている。

きょうだい児で大変だったことは色々あって、私は「きょうだい児でよかった」とは言えないけれど、でも恋愛に関してはきょうだい児じゃなかったら……とは思ってなくて。

「一人が寂しくてたまらない」という人には信じられないかもしれないけれど、実家と疎遠になり、恋愛をせず、一人で過ごす時間の長い今の生活で私は満たされてます。

「きょうだい児」という言葉も広がってきて、恋愛に関してもネットで色々な体験談を見ることもできる。もし悩んでいる方がいらっしゃったら、「結婚しない」という選択をした私としては、「本当に恋愛や結婚をしたいと思っているかは、一度考えてみてもいいかもしれない」ということは提案したいです。

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雪代すみれ

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